生成AI導入が「宝の持ち腐れ」で終わる理由――シャドーAIのリスクと「定着」への処方箋
「生成AIを全社に導入した。しかし、社員がほとんど使っていない……」
今、多くの企業がこの「導入後の壁」に直面しています。最新の調査では、日本企業の生成AI導入・検討率は急増しているものの、日常的に業務で活用できている層は依然として2割程度に留まっているというデータもあります。
なぜ、鳴り物入りで導入したツールが現場で「放置」されてしまうのか。放置したままでは、企業のセキュリティを脅かす深刻なリスクに見舞われることも。見落とされがちな「定着」のポイントはいったい何なのでしょうか。

1.「導入=ゴール」という誤解が招く、生成AIの宝の持ち腐れ
「全社で生成AIを導入した」――この宣言が、いまや珍しくなくなりました。実際、日本企業でも導入・検討は急速に進んでいます。たとえば、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の企業調査では、言語系生成AI(ChatGPT等)を“導入済み+準備中”の企業が41.2%に達し、前年から14.3ポイント伸長したと報告されています。導入の意思決定そのものは、確実に加速しています。
ところが――導入が広がるほど目立ってくるのが「導入したのに使われない」という導入後の壁です。導入が進む一方で、現場の“日常利用”や“業務定着”が追いつかない。このギャップが、生成AIを「宝の持ち腐れ」に変えていきます。
1) 「導入している」≠「使いこなしている」
導入率が上がっても、業務での利用率が同じ速度で伸びるとは限りません。国内の調査でも、勤務先が「導入済み」でも、本人が「業務で利用している」割合は2割に届かないといった結果が示されています(導入済み22.9%に対し、業務で利用16.8%という調査例)。つまり、組織として導入しても、個々人の実務に落ちていないケースが多いのです。
さらに厄介なのは、「使っている人が少ないことで、ますます使われなくなる」という連鎖です。Gartnerの従業員調査では、AIを使える環境があっても使わない理由として「周りが使っていないから」という要因が挙げられるなど、“同調圧力”が利用を止める現象が示されています。ツールの性能以前に、組織心理がブレーキになるわけです。
2) ツール整備だけでは埋まらない「スキルと自信」の欠落
生成AIの価値は「入力(指示文)次第で出力が変わる」という特性にあります。ここを理解していないと、初回の体験が「微妙だった」で終わり、二度と開かれません。
この点を示す代表的なデータが、BCGの国際調査です。職場のAI活用を進める上で重要な施策として「トレーニング」が挙げられる一方、“十分なトレーニングを受けた”と感じている人は36%にとどまるとされています。導入しても、使い方を身につける機会が不足しているのです。
ここで起きるのが、次のような現象です。
- 使い方が分からず、最初の数回で離脱する
- “正解の聞き方”が分からず、成果が安定しない
- 仕事に組み込む設計がないため、忙しいほど使わなくなる
結果として、生成AIは「一部の得意な人だけが使う便利ツール」になり、全社投資の効果が出ません。
3) “日常業務に組み込む”設計がないと、コストだけが残る
導入後に成果が出る組織と、出ない組織の差は「ツールの有無」ではなく、業務プロセスの中に“正式に組み込まれているか”にあります。公的資料でも、効果が高い企業ほど、要約や検索といった単発利用にとどまらず、生成AIを業務プロセスに組み込み、仕組みとして定着を進めている傾向が示されています。
逆に言えば、組み込み設計がない企業では、こうなります。
- ライセンス費用は毎月発生する
- 成果は説明できない
- 現場の時間は減らない
- “導入した事実”だけが残る
この状態が「宝の持ち腐れ」です。しかも、この放置は単なる投資ロスで終わりません。使われない公式ツールの裏側で、無断利用(シャドーAI)が静かに増えるという、より深刻な問題に繋がります。
2.「シャドーAI」の脅威
生成AIを公式環境で導入したにもかかわらず、現場で利用が進まない状況は、企業に“放置されたAI”という別のリスクを生み出しています。これが近年注目されるようになった 「シャドーAI(Shadow AI)」 です。これは、従業員が企業が承認していないAIツールを業務で使ってしまう現象を指し、セキュリティ、コンプライアンス、データガバナンスに重大な影響を与えます。
1)公式ツール以上に広がる無断利用
シャドーAIが単なる噂や少数派の行動ではなく、多くの企業で実際に起きていることは、複数の最新調査が示しています。
たとえば、UpGuardのレポートでは、従業員の約8割が会社の承認を得ていないAIツールを業務で使用しているという衝撃的な結果が出ています。しかもそのうち約半数は定期的に利用していると回答しており、公式ツールのみを使っている比率は2割未満にとどまるという調査結果です。
また、別の調査では、従業員の78%が会社未承認のAIツールを使っていると回答し、さらに51%が「社内でAIの使い方に関して一貫した指針を受けていない」と答えています。こうした状況は、組織としてのAIポリシーの不透明さが無断利用の広がりにつながっていることを示しています。
英国を対象とした調査でも、71%の従業員が未承認のAIツールを職場で使っているという結果が報告されており、特定の業界や規模に限らずシャドーAIが一般化していることが裏付けられています。
2)なぜシャドーAIは起きるのか
シャドーAIが拡大する背景には、現場の効率化ニーズと企業側の公式ツールの使いにくさ・教育不足とのギャップがあります。
多くの従業員は、公式ツールが提供する機能では十分な効率化が図れない、あるいは操作が直感的でないと感じています。その結果、無料版ChatGPTや他社の生成AIツール、外部の自動化サービスを個人の判断で使うことで、短期的な生産性を維持しようとするのです。
こうした背景を受け、従業員が意思決定者よりもAIツールの方を信頼する傾向すら調査で報告されています。ある報告によれば、従業員の3分の1以上が“最も信頼する情報源としてAIツールを挙げる”という結果もあり、公式のガバナンスを超える信頼関係が形成されつつあることが指摘されています。
3)シャドーAIがもたらす深刻なリスク
シャドーAIの危険性は、単なる“勝手なツール利用”にとどまりません。従業員が外部AIサービスに業務情報を入力することで、機密・個人情報・取引先情報・知的財産などが企業の統制外で流出するリスクが高まります。
具体的なリスクとして以下が挙げられます。
- データ漏洩・情報流出
従業員が非承認AIに内部資料や顧客データを入力することで、外部サーバーや第三者のモデル学習に利用される可能性があります。ある調査では、従業員の43%が許可なく機密情報をAIツールに共有してしまったと回答しており、企業データの露出が現実の問題になっています。 - コンプライアンス違反
個人情報保護法等の法令に抵触する情報の外部送信は、法的責任や罰則の対象になる可能性があります。従業員が無断で情報をAIに送信してしまうことで、企業が責任を問われるリスクが高まります。 - セキュリティインシデントの増加
Gartnerは、2030年までに40%以上の企業がシャドーAI関連のセキュリティ・コンプライアンスインシデントを経験する可能性があると予測しています。これはシャドーAIが単なる“現場の便利さの問題”を超えた組織全体の脅威になり得ることを示しています。
さらに、セキュリティ評価の低いシャドーAIアプリケーションが複数存在し、基本的な暗号化や多要素認証が欠如しているケースも確認されています。こうしたツールの利用は、攻撃対象としての企業ネットワークの脆弱性を拡大します。
以上のように、シャドーAIは現場の自主的な効率化という側面だけでなく、企業全体のデータ保全、法令遵守、セキュリティ戦略に深刻な影響を与える存在です。
3.成功の分岐点は「便利な実感」を生み出せるか
生成AI導入の成否を分ける最大のポイントは、
社員一人ひとりが「これ、便利だ」と腹落ちできるかどうかです。
裏を返せば、
- 便利さを実感できない
- 自分の仕事が本当に楽になるイメージが湧かない
この状態が続く限り、どれだけ高度なAI環境を整備しても、定着は起こりません。
この事実は、国内外の複数の調査データによって裏付けられています。
1)「効果を実感できた人」だけが、使い続けている
Microsoftが公表している「Work Trend Index」では、生成AIを業務で継続的に活用している人の特徴として、次の傾向が示されています。
- 業務時間の短縮を明確に実感している
- 自分の成果が向上したと感じている
- AIを“実験”ではなく“仕事の一部”として扱っている
特に注目すべき点は、AIを「役に立つ」と感じた層は、利用頻度が3倍以上に伸びるという結果です。一方で、「効果がよく分からない」と感じた層は、初期利用後に急激に離脱しています。
つまり、生成AIの定着は「スキルの高さ」ではなく、初期段階での成功体験の有無に大きく左右されるのです。
2)成功企業に共通する「業務直結型」の使わせ方
BCGが行ったグローバル企業調査では、生成AIのROI(投資対効果)が高い企業ほど、次の特徴を持つことが示されています。
- 全社員向けの一律研修ではなく、職種・業務別ユースケースを提示
- 「AIとは何か」よりも「この仕事でこう使う」を重視
- 使った結果が時間削減・品質向上として可視化されている
具体的には、
- 会議議事録の要約
- 企画書のたたき台作成
- 定型メール・報告書の下書き
- 社内FAQの検索・要約
といった、「誰がやっても時間を取られる作業」に生成AIを組み込んでいます。
BCGの調査では、こうした業務直結型活用を行っている企業は、
生成AI導入から半年以内に生産性向上を実感している割合が約70%に達しています。
逆に、活用テーマを現場任せにした企業では、その割合が30%未満にとどまりました。
3)「成功事例の共有」が、組織全体の利用率を押し上げる
もう一つ重要なのが、成功体験を個人で終わらせない仕組みです。
IPA(情報処理推進機構)や経済産業省の関連資料では、デジタルツール定着の成功要因として、次の点が繰り返し指摘されています。
- 身近な成功事例の可視化
- 同じ立場・職種の事例共有
- 数値での効果提示(時間削減率など)
たとえば、
「営業部のAさんが、生成AIで提案資料作成時間を50%削減」
といった具体的な事例は、
抽象的なメリット説明よりも、はるかに強い行動喚起になります。
実際、国内企業調査でも、社内で成功事例を共有している企業は、していない企業に比べて生成AIの利用率が約2倍高いという結果が報告されています。
4)「便利な実感」が生まれた瞬間、AI活用は自走する
ここまでのデータが示しているのは、非常にシンプルな結論です。
- 便利さを実感できない → 使われない
- 便利さを実感できる → 勝手に使われ始める
一度「これを使わないと損だ」という感覚が生まれると、社員は自発的に活用法を探し、工夫し、共有し始めます。
この段階に入ると、企業が細かく指示を出さなくても、生成AI活用は文化として定着していきます。
結論.生成AI導入の本質は「技術投資」ではなく「組織変革」である
ここまで見てきた通り、生成AIが「宝の持ち腐れ」で終わるか、それとも企業の競争力を底上げする武器になるかを分ける要因は、ツールの性能や導入スピードではありません。
最大の分岐点は、
生成AIを「入れたか」ではなく、「使いこなす組織に変われたか」
この一点に集約されます。
導入が失敗する企業に共通する構図
統計データや調査結果を横断的に見ると、生成AI導入が停滞する企業には、共通した構図があります。
- 導入率は高いが、日常業務での利用率は2割前後にとどまる
- 使われない公式ツールの裏で、シャドーAIが静かに拡大する
- 利用ルールや教育が追いつかず、セキュリティ・法務リスクが高まる
- 投資対効果を説明できないまま、コストだけが残る
これは偶然ではなく、「導入=完了」という発想のままでは、現場の行動も、仕事のやり方も変わらないからです。
成功企業がやっているのは「使わせる仕組み」づくり
一方、生成AI活用で成果を出している企業は、共通して次の認識を持っています。
- 生成AIはITツールではなく、働き方を変える装置である
- 定着には、教育・支援・成功体験の設計が不可欠
- 便利さを実感できた瞬間から、活用は自走し始める
実務に直結した伴走型研修、身近な成功事例の共有、業務プロセスへの組み込み。
これらを通じて社員が「これを使うと仕事が楽になる」と理解したとき、生成AIは初めて“社内の当たり前”になります。
その結果として、
- 利用率が自然に上がる
- シャドーAIが減少する
- セキュリティと生産性が両立する
- 投資対効果を説明できる
という好循環が生まれます。
「使いこなすまでが導入」であるという覚悟
生成AI時代において、企業が取るべきスタンスは明確です。
導入して終わりではない。
使いこなせる組織に変わるまでが、生成AI導入である。
この視点を持たずに導入を進めれば、
生成AIは「使われないツール」になり、
やがて「統制不能なシャドーAI」というリスクに姿を変えます。
逆に、現場に寄り添い、便利な実感を積み重ねる覚悟を持てば、
生成AIは生産性向上・人材不足対策・競争力強化を同時に実現する基盤になります。
生成AI導入とは、技術の問題ではなく、組織変革(チェンジマネジメント)の問題です。
この本質を見誤らないことこそが、生成AI時代を生き抜く企業に求められる最重要条件と言えるでしょう。
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出典
BCG「AI at Work 2025」日本語プレスリリース(2025年7月2日) BCG Global
JUAS「生成AIの利用状況(『企業IT動向調査2025』より)の速報値」(2025年2月18日) JUAS 一般社団法人 日本情報システムユーザー協会 |
Gartner HR Survey プレスリリース(2025年12月16日) ガートナー
財務省 広報誌『ファイナンス』掲載資料(生成AI導入と定着に関する記述、出典にJUAS等を明記)(2025年8月号) 財務省
PR TIMES掲載:生成AIのビジネス活用に関する調査(導入状況22.9%、業務利用16.8%等の記載)(2024年10月28日) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES
Shadow AI is widespread — and executives use it the most (UpGuard, 2025) サイバーセキュリティダイブ
New Research from UpGuard Reveals 68% of Security Leaders Admit to Unauthorized AI Usage (UpGuard, 2025) UpGuard
New WalkMe Survey: Shadow AI, Training Gaps (SAP News, 2025) SAP News Center
Rise in 'Shadow AI' tools raising security concerns for UK (Microsoft research, 2025) Microsoft UK Stories
Shadow AI and the hidden risk in AI adoption (SecurityForum, 2025) Information Security Forum
Shadow AI Statistics: How Unauthorized AI Use Costs ... (2025 stats) Programs.com
Shadow AI インシデント:2030年までに 40% 以上の企業で発生 (Gartner prediction, 2025) IoT OT Security News
2025年のシャドーAI:セキュリティチームが知るべき5つの洞察 (Forbes Japan, 2025) Forbes JAPAN
シャドーAIとは?見えないAI利用が招く情報漏洩リスク (Eltes Solution, Oct 2025) 株式会社エルテス
Microsoft「Work Trend Index 2024–2025」
Boston Consulting Group(BCG)「AI at Work」「GenAI ROI Survey」(2024–2025)
情報処理推進機構(IPA)『DX白書』『AI利活用に関する調査報告書』(最新版)
経済産業省「生成AI活用に関する企業事例集・ガイドライン」(現行版)
JUAS「企業IT動向調査2025(生成AI利用状況)」
Microsoft「Work Trend Index 2024–2025」
Boston Consulting Group(BCG)「AI at Work」「GenAI ROI Survey」
情報処理推進機構(IPA)『DX白書』『AI利活用に関する調査報告書』(現行版)
経済産業省「生成AI活用に関するガイドライン・企業事例集」(最新版)
Gartner「Shadow AI and Enterprise Risk Forecasts」(最新予測)


